rehay_jishin on Twitter リハビリ医療と東日本大地震を考える

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瀬田拓先生の提言「今リハビリテーションがすべき被災者/被災地支援」(全文)
東北大学病院肢体不自由リハビリテーション科の瀬田拓先生の「今リハビリテーションがすべき被災者/被災地支援」の全文転載の御許可を得ましたので掲載します。

元データは若林秀隆先生のブログです。 

http://rehabnutrition.blogspot.com/2011/04/blog-post_13.html

瀬田先生と若林先生に感謝致します。


【はじめに】

 平成23311日、未曽有の被害をもたらした大地震と大津波が東日本を広域に襲った。特に大津波が直撃した、岩手・宮城・福島の沿岸地域は、町全体が壊滅的被害を受け、本来急性期病院機能を担うはずであった石巻市立病院が完全に機能停止に至ったのが象徴的なように、医療システムが根底から崩壊した。震災より1か月が経過した412日現在、13千人超の死者が確認されたにもかかわらず、いまだ数万人の行方不明者がおり、避難所生活者も15万人を超えると言われている。懸命のインフラ復旧が進められているものの、沿岸地域で電気・水道・ガスが揃った場所は限られており、在宅生活者も大変厳しい状況が続いている。

 

 被災者/被災地支援としては、インフラ再整備を筆頭に幅広い分野の支援が必要とされるが、医療・福祉システムの再構築も急務であることは言うに及ばないことである。石巻市を例に挙げれば、救急医療の拠点になるはずであった石巻市立病院が機能停止したことは先に述べた通りであるが、1次医療を担うクリニックや診療所機能も崩壊している。伝聞情報ではあるが、石巻市の開業医の3分の1が津波で命を落とし、生き残った開業医も約半数が石巻市での再開業を考えていないという。そのため石巻赤十字病院が1次医療から3次救急までを、ほぼ一手で受け持つことになっており、石巻赤十字病院全体が疲弊の極みにある。

 

 救急・急性期医療を後方より支える、回復期リハビリテーション(以下リハ)機能や療養機能の低下・崩壊は、あまり取り上げられないが深刻である。元々沿岸地域の回復期リハ機能は、回復期リハ病棟整備の遅れから、一般病床や療養病床で行っていたという背景もあり、沿岸地域の一般・療養病床の病院崩壊は、事実上回復期リハ機能の低下に直結している。さらに仙台地区に目を移せば、回復期リハ病棟を運用していた、厚生年金病院48床、東北公済病院宮城野分院40床が建造物のダメージで機能停止に陥っており、沿岸地域の救急医療を仙台地区で補っても、それを下支えする回復期リハ機能が仙台地区でさえ大きく低下している現状にある。

 

 在宅障害者を支援するシステムの崩壊も同様に深刻である。仙台地区における介護保険サービスは、ガソリンが行き届くとともに、機能が回復する傾向にあるが、沿岸地域ではその兆しが全く認められない。また、障害者がこれまで使用していた補装具の紛失・破損が目立っており、自立支援法や医療による救済が急務である。さらに、在宅復帰を目標にしても、これまでに経験しない難しい在宅準備・支援を必要とする入院患者が多く、通常の医療の範囲内では、在宅復帰支援が行き届かなくなる可能性が高い。最近では、その存在価値が失われた感がある更生施設機能の早急な復興、あるいは今までの枠組みにない新しい、生活再建支援プログラムの創設が必要である。

 1次医療から在宅支援までを含む医療・福祉システムすべての領域に支援が必要であるが、このすべての領域でリハが関与しないところはない。すべての領域に対しリハが力強く直接的・間接的に支援することは、未曽有の災害からの医療・福祉システムを復興させるために不可欠なものと考える。

 

【リハが重点的に関与すべき項目】

1.リハマインドを持つ一次医療システムの復興・創設

2.急性期リハ充実化による、救急・急性期医療の質向上

3.回復期リハの回転率向上・病床復旧による、回復期リハ機能の復旧・創設

4.リハビリ機能を持つ療養病床復旧による、療養機能の復旧

5.甚大被災者でも生活再建を可能にする、更生機能の復古・創設

6.在宅被災者が安心して、人間らしく生活できるための介護保険サービス、自立支援法サービスの復旧

 

1.リハマインドを持つ一次医療システムの復興・創設

 1次医療システムを担うのは、プライマリーケア医(PC医)であり、直接リハ医が1次医療を担うことは少ない。甚大被災地では、多くのPC医が命を落としたり、被災地を離れる意向のため、1次医療システムを再興するにしても、十分な医師確保ができない可能性がある。そのため、今後被災地へのPC医の新規参入を誘導する施策が進むことと推測するが、その際、特に在宅支援等のリハ分野の知識や考え方が身についたPC医が新規参入することが望ましい。

 

 新規参入PC医に対し、最低限のリハ分野の知識や考え方、さらに今後も自己研鑽すべき領域にリハ分野も含まれることが理解できるような教育が受けられる場の創設が期待される。

 

2.急性期リハ充実化による、救急・急性期医療の質向上

 救急・急性期医療を担ってきた病院が、いくつも機能停止してしまった現状では、救急・急性期医療を担える病床数の量的確保が急務である。現状での急性期リハの第1の役割は、リハ介入により早期退院につなげることが可能な患者を増やし、急性期ベッドの量的問題解決に貢献することである。廃用症候群やその他の合併症により、退院可能な患者が長期入院に陥ることは絶対に回避すべきである。

 

 そのため急性期リハの充実化が必要で、リハスタッフの量的な充実化も当然期待するが、急務であるのは、リハスタッフの使命感やモチベーションの向上、訓練目的の明確化による急性期リハの質的改善である。

 

3.回復期リハの回転率向上・病床復旧による、回復期リハ機能の復旧・創設

 回復期リハは、量的な低下が著しい。量的低下の第1の原因が、機能停止した回復期リハ病棟、事実上回復期リハ機能を持っていた療養病床の機能停止であるが、機能が生きている病院であっても、回転率の低下により、機能的に量的低下に陥っているところが、いくつも存在する。

 

 元々東北地方の回復期リハの回転率は低く、正確なデータではないが、脳卒中の回復期リハ病棟平均在院日数は約100日程度と思われる。機能が生きている回復期リハ病棟に、リハ科専門医等が強力に支援することで、これまでと同条件の患者の平均在院日数を2030日短縮することができれば、量的問題を大きく解決することになると思われるとともに、これはまさに質的改善そのものでもある。

 

 次に新規参入回復期リハ病棟を創設、支援することで、直接量的問題の解決を図りたい。私自身は、白石市に60床で新規参入予定であった公立病院を、4月初旬より直接支援しており、412日現在、脳卒中と骨折患者の回復期リハが展開できる体制が整いつつある。スタッフ数の問題で当面は40床までの稼働になる見込みであるが、半年後には、脳卒中、骨折、脊損(対麻痺)、下腿切断の回復期リハを、1年後にはあらゆる回復期リハ対象患者に対応可能な回復期リハ病棟にすることを目標としている。

 

 しかし、本来リハは急性期から回復期、維持期のすべてを、その患者が居住する地域で完結させることが望ましく、沿岸住民の回復期リハは、本来沿岸地域やその近隣で行うべきである。白石市や仙台市でもすでに遠隔地であり、関東やその他の地域で回復期リハを行うことはかなり無理がある。そのため、沿岸地域の近隣で、ある程度インフラが整備された地区に、新規回復期リハ病棟が創設されることが期待される。根拠のある数字ではないが、回復期リハ病棟100床、回復期リハ適応患者ではないが、リハを前置きすべき患者にも対応できる一般病床または療養病床50床が必要と考える。

 

4.リハビリ機能を持つ療養病床復旧による、療養機能の復旧

 療養病床は、医療的処置が必要な要介護者が長期に入院するためだけでなく、回復期リハの基準に合致しないが、リハを前置きすべき状態の患者に、回復期リハ病棟に近いレベルのリハを提供するために利用されることがある。前述した通り、根拠のある数字ではないが、沿岸近隣地区に50床程度必要と考える。

 

5.甚大被災者でも生活再建を可能にする、更生機能の復古・創設

 津波被災者の生活再建は、身体障害のない被災者でも困難が予想される。避難所生活者が急性疾患を発症し、片麻痺や対麻痺のような重い障害が後遺した場合、生活再建は困難を極めると推測される。このような患者に対しては、既存の回復期リハ機能による、在宅準備援助では十分対応しきれないため、対策が必要である。

 

 回復期リハ病棟の入院期間延長により、解決できる場合もあると思うので、被災者の回復期リハは当面入院期間の制限を不問にすることが望ましい。しかし、それでも医療による援助のみでは解決できない患者が続発すると予想する。そのような患者に対しては、十分な時間をかけて、介護保険法、自立支援法をはじめとする、あらゆる制度を利用しながら生活再建を図る必要があり、更生施設や老健施設による生活再建援助を期待したい。特に更生施設は歴史的に、そのような役割を果たしていた時期がある。更生施設による生活再建機能の復古を期待したい。長期的には全く新しい枠組みによる、生活再建支援プログラムが必要なのかもしれない。

 

6.在宅被災者が安心して、人間らしく生活できるための介護保険サービス、自立支援法サービスの復旧

 入所サービス、通所サービス、訪問サービス、介護用品のレンタル等、介護保険サービス全般の復旧なくして、要介護者の安定した在宅生活は成り立たない。人間らしい生活を維持することを支援する介護保険サービス全般の復旧が期待される。

 

 介護保険サービスの普及により、自立支援法は以前より役割が縮小されたが、介護保険非適応年齢の障害者へのサービス提供や、介護保険サービスでカバーしきれないサービスの提供を担っており、現在も障害者生活支援の1つの柱であることに変わりはない。今回の被災により、医療や自立支援法で支給された補装具が紛失したり破損してしまったケースが多数報告されており、早急な対応が必要と考える。事実上生活用具となっている補装具の医療での再処方は、現行制度では難しく、訓練期でなくても被災による紛失・破損であれば、前回作製の補装具を医療で再作製することを認める特例を期待したい。また、自立支援法での支給をする場合は、申請から支給まで、これまでにないスピードで行うことが求められるとともに、従来の予算枠を大きく超過することが予想されるため、審査方法の再検討と支給可能な予算確保が必要と考える。

 

 避難所生活者、仮設住宅生活者の支援も、当然忘れてはならない。特殊生活環境による、急性疾患や精神障害の発症をまず抑制する対策が必要であるが、生活不活発が招く病態への対策も同時に必要である。リハ専門職がその能力を最大限発揮することで、運動指導のみならず、環境調整、介護用品や補装具の利用等さまざまな方面から活動性向上を図る対策を打ち出すことを期待したい。

 

【おわりに】

多くの命を奪った大津波だが、生き残った人の多くが、自身が生き残った意味を考えていると思われる。また、自身が生き残った意味を求めていると思われる。その答えに近づけるリハ支援が、真に有効なリハ支援であると私は考える。国際生活機能分類(ICF)で言えば、「活動」の支援が重要であることは否定しないが、一時の活動向上ではなく、生活全般の継続する活動向上(生活の変容)につながる支援でなければ意味がない。すなわち、「参加」の支援を積極的に進めていくことが大切である。もっと分かりやすく言えば、「役割」の再獲得につながるようなリハ的支援が大切ということである。そしてこの時、支援者には、リハ支援における役割を通常よりもかなり広義にとらえることができるセンスが求められる。孫が喜ぶ祖母の笑顔も立派な役割である。リハがどれだけ広い視野で被災者/被災地を支援できるかが、試されているのだと思う。


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